東京高等裁判所 平成元年(行ケ)253号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)、同三(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。
1 成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 大規模集積回路装置(以下「LSI」という。)に採用されるビルデイングブロツク方式(以下「B・B方式」という。)は、一チツプ内に数十ないし数百種類の論理機能を持つブロツク(ユニツトセル)を横(又は縦)方向に多数個連接配置した論理機能ブロツク段を縦(又は横)方向に所定間隔を隔てて数段に配列し、各ブロツク段間で各ブロツクの入出力端子を相互接続するものである(本願公報第一欄末行ないし第二欄第一五行、別紙図面一第1図、第2図参照)が、X方向の配線群を形成するに当つては、同一配線群の各配線は同一平面上に設けられ、またその配線電気抵抗や信号伝播遅延時間を考慮する必要があるためそれら配線寸法に限界が生じた。そのため高密度化を考慮したB・B方式によるLSIでは、その配線部の占める面積が半分以上となるので、配線部におけるマスクパターンの配置をかなり綿密に考慮する必要があつた(同公報第三欄第三五行ないし第四欄第一九行)。
本願発明は、右知見に基づき半導体装置の配線占有面積をかなり縮小化できる半導体装置を提供することを技術的課題(目的)とするものである(同公報第四欄第二一行ないし第二七行)。
(二) 本願発明は、右技術的課題を達成するため特許請求の範囲(本願発明の要旨)記載の構成(同公報第一欄第二行ないし第一一行)を採用したものである。
(三) 本願発明は、前記構成を採用したことにより、B・B方式による配線部において、特にそのX方向配線群を第一の配線層と第二の配線層とで構成し、Y方向配線群を第三の配線層で構成し、これら第一、第二、第三の配線層をそれぞれ異なる平面上に配置し、しかも第一の配線層を必要最小限寸法及び間隔にて形成しかつその第一の配線層間に第二の配線層をその第一の配線層と重ならない程度に接近させて配置できるため、その配線部の面積を約半分とすることができたものであり(第八欄第四一行ないし第九欄第八行)、しかも配線パターンは従来と同じ一括筆記されるので設計自由度は同じであるという作用効果を奏するものである(第九欄第三〇行ないし第一〇欄第二行)。
2 原告は、本願発明と第一引用例記載のものとは「縦方向に所定間隔を隔てて配置された多数の論理機能ブロツク段と、各ブロツク段間で各ブロツクの入出力端子を相互接続する縦及び横の配線群とを有した」半導体装置である点で一致しているとした審決の認定は誤りである旨主張する。
前記審決の取消事由1によれば、原告が審決の右認定を誤りとする理由は、本願発明における配線群は、特許請求の範囲記載そのものから、所定間隔を隔てて配置された互いに隣接する各論理機能ブロツク段間に配置されていることを示しており、また、「各論理機能ブロツク段間」が論理機能ブロツク段とそれに隣接する論理機能ブロツク段との領域を指すことは、本願公報の第4図及び第五欄第四三行ないし第六欄第四行の説明から明らかであり、本願明細書に開示された実施例もすべて三層構造を有する配線群は互いに隣接する各論理機能ブロツク段10と11との間に形成されることを示しているのに対し、第一引用例記載のものが目的としている半導体装置における配線方法は、一のセルグループにおける一のユニツトセルとそのユニツトセルが属するセルグループとは隣接していない他のセルグループのユニツトセルとを相互接続するための配線方法にすぎず、第一引用例に示された三層の配線群は、ブロツク段の上を接続配線を通過させるために三層とするものであること、に基づくことが明らかである。
しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には、「各種論理機能ブロツクを半導体基体内に横(又は縦)方向に連接配置するとともに縦(又は横)方向に所定間隔を隔てて配置された多数の論理機能ブロツク段と、各ブロツク段間で各ブロツクの入出力端子を相互接続する縦及び横の配線群とを有し」とのみ記載され、右の「各ブロツク段間」が「互いに隣接する各ブロツク段間」であり、配線群はこの互いに隣接する各ブロツク段間に配置されるものであるとの限定は存しない(「所定の間隔を隔てて」とは、定められた間隔を隔ててという意味であつて、それ以上に格別の意味を持つ用語ではない。)。
なるほど、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、第4図及び第7図(別紙図面一参照)に図示された二つの実施例が記載されており、右実施例に図示されたものはいずれも配線群が互いに隣接する各ブロツク段間に配置されたものであり、第4図に図示した実施例の説明として、「この時、各ブロツクの入出力端子の相互配線接続は、ブロツク段10と11との間の領域において、各ブロツクの入出力端子に接続される縦方向すなわちY方向の配線群21と、それら配線群21相互間を接続する横方向すなわちX方向の配線群20とにより行われる」(第五欄第四三行ないし第六欄第四行)と記載されていることが認められるが、本願明細書のどこにも本願発明において配線群は「互いに隣接する各ブロツク段間」に配置されるものに限定されるとの記載はなく、その示唆も存しない。実施例は、その発明の実施態様の例を示したものであつて、実施例の記載を理由に本願発明における「各ブロツク段間」を「互いに隣接する各論理機能ブロツク段間」に限定されるものと解することはできない。
そして、本願発明のような半導体装置において、一般的な回路を構成するためには隣接しないブロツク段間の配線も必要であることは技術的に自明である(このことは、原告も特に争つていない。)から、本願発明は、配線群を「互いに隣接する各ブロツク段間」に配置する場合及び「互いに隣接しないブロツク段間」に配置する場合を含むものというべきである。
一方成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、第1図(別紙図面二参照)として、従来方式によるLSIパターン図が示され、「この方式は、(中略)第1図に示す如く、必要なユニツトセル(1)を複数個一列に隙間なく配列してなるセルグループ(2a)、(2b)(2c)を、必要個数作り、次いで各ユニツトセル(1)間の相互接続をなすもので、この時各種ユニツトセル(1)につき、電源ラインやクロツク信号ラインの如き共通信号ラインとの接続端はユニツトセルの配列方向側に一定間隔で配置され、而して共通信号ラインはセルグループ毎に各セルグループ領域内に配置され、又その他の非共通信号ライン(3)との接続端はユニツトセルの配列方向に対して直角な方向側に一定間隔で配置され、而して非共通信号ライン(3)はセルグループ領域外にて一定間隔で配置される。」(第一頁右下欄第一四行ないし第二頁左上欄第一〇行、第六頁第四行ないし第一二行)と記載されていることが認められ、また、そのセルグループが本願発明の論理機能ブロツク段に相当し、ユニツトセルが本願発明のブロツクに相当することは、当事者間に争いがない。
したがつて、第一引用例には、各種論理機能ブロツクを半導体基体内に横方向に連接配置するとともに縦方向に所定間隔を隔てて配置された多数の論理機能ブロツク段と、各ブロツク段間で各ブロツクの入出力端子を相互接続する縦及び横の配線群とを有した半導体装置が記載されている。
また、第一引用例の第二頁左下欄第六行ないし第一〇行に、「各ユニツトセル間の相互配線を三層以上の多層配線構造で行なえば、その配線距離はほとんど最短距離になり、従つて上記二層配線構造の如き広い面積の内部配線領域や外部配線領域は不要になると考えられる。」と記載されていることは、当事者間に争いがないから、第一引用例には、前記配線層を三層にする半導体装置が示されているといえる。
この点について、原告は、第一引用例に示された三層の配線群は、ブロツク段の上を接続配線を通過させるために三層とするものであるから、本願発明と異なる旨主張するが、本願発明が互いに隣接しないブロツク段間に配線群を配置する場合を含むものであること前述のとおりであり、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、その場合の配線群の配置について格別の記載が存しないことが認められるから、その点において両者の間に差異があるということはできない。
したがつて、本願発明と第一引用例記載のものとは「縦方向に所定間隔を隔てて配置された多数の論理機能ブロツク段と、各ブロツク段間で各ブロツクの入出力端子を相互接続する縦及び横の配線群とを有し」配線層は三層である半導体装置である点で一致しているとした審決の認定に誤りはない。
3 第二引用例に審決認定の技術内容が記載されていることは、当事者間に争いがない。
原告は、「第二引用例には、本願発明のような一の論理機能ブロツク段とこれに隣接する他の論理機能ブロツク段との間の領域に配置される配線の構造に関しては何らの開示もそれを示唆する記載も見当たらず、またそれによつて互いに隣接する各論理機能ブロツク段間の間隔を必要最小限の寸法となすことにより、配線部の面積を縮小しコストダウンを図るとともにスピードアツプ等の性能の向上を達成することが可能となるという作用効果に関しても何らの記載がみられない。一方、第一引用例における三層の配線層は、本願発明の配線構造とは全く異なる部分における配線構造を示しているものであるから、第二引用例記載のものの技術を第一引用例記載のものに応用して本願発明の相違点に係る構成を得ることは当業者にとつて不可能なことである」との理由で本願発明と第一引用例記載のものとの相違点に関する審決の判断は、誤りである旨主張する。
しかしながら、本願発明は、互いに隣接する各論理機能ブロツク段間に配線群を配置するものに限定されないことは前記認定のとおりであつて、原告の右主張は、その前提において誤つている。
そして、第一引用例記載のものにおいて、縦、横の配線群を三層の配線層に割り振る場合において、第二引用例記載のものに記載された縦の配線群と横の配線群とをそれぞれ異なる配線層に割り振る方法を適用して縦及び横の配線群の一方が、第一の配線層と第二の配線層を有し、他方が、第三の配線層を有し、前記第一の配線層及び前記第二の配線層の少なくとも一方が前記第三の配線層と異なる平面上に形成することは、当業者であれば、容易に想到し得ることというべきである。また、第一引用例に、「各ユニツトセル間の相互配線を三層以上の多層配線構造で行なえば、その配線距離はほとんど最短距離になり、従つて上記二層配線構造の如き広い面積の内部配線領域や外部配線領域は不要になると考えられる。」と記載されていることは、前述のとおりであるから、本願発明の相違点に係る前記構成を採用することにより奏することのできる原告主張の作用効果は、当業者の予想を越えるものということはできない。
したがつて、本願発明の相違点に係る前記構成を採用することは、「格別な創意工夫を要することなく当業者が容易に想到し得ることであり、またその効果も当業者の予想範囲を越えるとは認められない」とした審決の判断に誤りはない。
4 以上のとおりであるから、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点についての審決の認定、及び両者の相違点についての審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
各種論理機能ブロツクを半導体基体内に横(又は縦)方向に連接配置するとともに縦(又は横)方向に所定間隔を隔てて配置された多数の論理機能ブロツク段と、各ブロツク段間で各ブロツクの入出力端子を相互接続する縦及び横の配線群とを有し、前記縦及び横の配線群の一方が、第一の配線層と第二の配線層を有し、他方が、第三の配線層を有し、前記第一の配線層及び前記第二の配線層の少なくとも一方が前記第三の配線層と異なる平面上に形成されてなる半導体装置(別紙図面一参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面
<省略>
<省略>
別紙図面
<省略>
(他は省略)